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不動産ブローカーになる前、会社勤めをしていたときには、何かとスケベな上司や気持ちの悪い同僚に対して「あいついつか訴えてやるっ!」と心の中で何度となくつぶやいたことはあったけど、そんな私のぼやきはただの寝言で終わりだと思っていた。むやみにセクハラだといって訴訟を起こしても、その後働かなくてもいいぐらいがっぽりと慰謝料を貰ったという話を聞いたことがなかったし、訴訟なんて私には無縁だと思っていたから。アメリカは訴訟の国だとは言っても、平凡に生活をしてる身であればそうそう訴えたり、訴えられたりなんてことはアメリカといえども滅多にないことだと思っていたのだけど、でもやっぱりアメリカに長く暮らしていると、あちらこちらで訴訟の話を耳にする。
マクドナルドなんていろんなことで訴えられている。マックでコーヒーを買って飲んだ人が「熱いと知らずに持って火傷した」。熱いですから注意してくださいと言わなかった店側が悪いといっては訴えられ、マックのハンバーガーを食べたせいで肥満になったといっては訴えられている。最近私がびっくりした訴訟は、「ギャンブルで大損してカジノを訴えた」というもの。訴えたのはニューヨークに住む女弁護士!だそうだ。素人の見解でいくと、ギャンブルをしていたのはあなたであって、負けたのもあなた。カジノは負けてくれる客がいるから商売が成り立っているわけで、いちいち負けたからといって訴えられてたら商売にならないのじゃないかと思うのだが。弁護士の人が訴えるぐらいだから、勝つ見込みが少しぐらいはあるということなのだろうか???
こういう具合に、コーヒーは熱いに決まってるだろ、とか、ハンバーガーばっかり食べてたらそりゃ太るだろ、とか、ギャンブルは勝つこともあれば負けることもあるだろ、と日本人なら普通に思うようなことで訴えられるのである。ある意味、アメリカ人というのは自分の非を認めずにすべてを他人の責任にしたいのかもしれない。なので、とにかくアメリカの企業は、訴訟を恐れてなんでもかんでも異常なまでの注意書きをしているように思う。最近笑ったのは、引越し屋の注意書きだ。「ダンボール箱に人を入れて運ばないでください」とか「ガムテープで人をぐるぐる巻きにしないで下さい」という注意書きがあった。これは、日本人にとってギャグ以外の一体なんだというのか?でもまあ広いアメリカにはいろんな人間がいるから(本当に、日本では想像できないくらいに)、どんな人間が何を考えて引越しをするかわからないので、これくらい大げさに注意をしないとならないんだろう。それを怠ったばかりにお客さんから「荷物と一緒に引越しを手伝ってくれた友達を箱にいれたら死んでた、どうして言ってくれなかったんだ」と言って訴えられるぐらいなら、「馬鹿にしてるんですか」と思われようが、少しぐらい費用がかかろうが過剰に注意書きをしておいたほうがいいってもんだ。もうひとつ注意書きでびっくりしたのは、デパートでベビーカーを見かけたときのこと、そのベビーカーの注意書きがなんと、「赤ちゃんを入れたままたたまないで下さい」と書いてあったことだ。って、あたり前!普通に考えて、赤ちゃんが乗ってたらたためないだろうし、と思ったのだけど、いろんなところにそういう注意書きが書いてあるのを見ると、アメリカというのはそこまでしないと、とんでもなくうっかりした人間がいつでも訴訟の準備をしている国だということかもしれない。
さらにビジネスをしている人はやはり金銭のことで訴えたり訴えられたりすることがすごく多いみたいだ。よく聞くのは、レストランの床が濡れていて滑って転んだお客さんから訴えられたりだとか、フリーで働いてるデザイナーなんかが仕事をしたのに報酬が送られてこないので訴えたりだとか。本当に困って最終手段として訴えるケースもあれば、チャンスとばかりに(何がチャンスなのかはよくわからないが)やたら滅多に訴える、訴えるのが趣味みたいな人たちもいる。この私でさえ、今までとにもかくにも平凡に生きてきたつもりだが、一度ほとんど騙しという手口で訴えられかけた経験がある。完全に相手は訴えるのが趣味みたいな人で、私のほうには何の落ち度もなかったので、実際には訴訟まで発展しなかったのだけど、こんなことで訴えるのかと訴訟というのを初めて身近に感じた経験だった。
カリフォルニアの不動産エージェント(夫婦で不動産経営、しかもただのロサンジェルスじゃありません、ビバリーヒルズでございます)が連絡をしてきて「マンハッタンに投資の為のコンドミニアムを購入」したいからエージェントになってくれないかと頼まれた。基本、不動産エージェントのライセンスというのは、州ごとに発行されるので、ニューヨーク州のライセンスを持っていない彼らは、ニューヨークで物件を買うにあたって私にエージェントになってもらいたいということだった。それでも、この業界では他州のエージェント同士でお客さんを交換するときには紹介料というのを払うシステム(マナー)になっているから、親切のつもりで紹介料をどちらかに払う約束をした。向こうからその要求はなかったのだけど、私が親切にもそういう提案をしてあげたのだ。出たぁ〜、私の親切の押し売り。その夫婦は二人とも不動産エージェントだけれども、別に二人からお客さんを紹介してもらったというわけでもないので、なんだか紹介も何もないような感じではあるが、例えば旦那が購入したことにして、その旦那を紹介してくれた奥さんに紹介料を払うということにしたのだった。
彼らはマンハッタンのビバリーヒルズにあたると思われるアッパーイーストでスタジオを探していたが、スタジオがマーケットにでてきてもあっという間に買い手がついてしまってなかなか思うような物件にめぐり合えなかった。そのうち私にもっとガッツをいれて働いてもらいたいという意味で「紹介料も何も要らないからお願いだからケイコの力でロケーションのいい物件を探して欲しい」という事を言われた。別にそれを言われようが言われまいがお客さんのために日夜、努力をするのは変わらないのだが、たまたまそのあとに彼らの望む物件にオファーをいれて購入できる事になった。そして何事もなくクロージングを終え、ニューヨークでショッピングを楽しみビバリーヒルズに帰っていった2人。
クロージングが終わり一週間くらいして、私の所属する不動産会社から私にコミッションが支払われたので、私は受け取ったコミッションの何%かを紹介料として彼らに送った。それから3日くらいして奥さんの方から電話があった。私は当然「ケイコ有難う!!紹介料要らないといったのに、それでも送ってくれたなんて感激よぉ!ワオォー」と言ってくれるかと思いきや、サンキューどころか「金額間違ってない?」と切れ気味で電話をかけてきた。最初、私は彼女が何か(誰か)と勘違いしているんだと思い、へらへらした態度で対応したがやはり彼女は私に対して「コミッション」のチェックを受け取ったけど金額間違えてるよ。ということを言いたかったようす。そこで事態を把握した私は、自分で言うのもなんだけど「あのぉ、そのチェックはお礼のつもりで送ったわけで、あなたが本来受け取るべきチェックではないのだけど。。??」と言ってはみたが、なんで私がこんなことを言ってるのかとなんだか不思議な気分になった。頭の中を何度となく整理してみても、私のほうが間違ってるとは思えなかったし、奥さんの方からメールで依頼されて殆どの会話はメールでとってあったから「確認してからまた連絡します」とだけ言った。
電話を切ってから彼女からの依頼のメールを読み返してみたが、要するにコミッションは100%私が受け取るという内容だ。それを彼女に伝えたが、彼女の態度は変わらず、いかに自分の言ってることが正しくて、私は英語を理解できてなくて何か勘違いしているんだと言い張るため、もうこれ以上はこのことで話したくないと言った。本来なら、いらないと言われたわけだし、払う必要もない紹介料を親切のつもりで送ってあげたのに、感謝されるどころが向こうは何が気に入らないのか私にめちゃくちゃいいががりをつけている。私があまりにも彼らの喧嘩に乗る気ではない事を知り、「訴えるからね!」と最後に言われた。そういわれても大した内容の書いてない数々のメールのやりとりをみてもどう考えても私に非はない。依ってどうにでもしておくれという態度でいたらなんと一ヶ月くらい過ぎたころ本当に裁判所から手紙がきた。これこれこういう内容であなたを訴えてる人がいます、反応よろしく、という内容の手紙だ。弁護士に一応相談したが私が読もうが弁護士が読もうが交わしたメールには私をエージェントしして雇いたいという内容の彼女からの依頼が書いてあるだけだ。私が相談に行った弁護士いわく、何を考えてるかわからないけどこうやってやたらめったら訴えたり、訴えられたりという日常に慣れていてテキパキととりあえず訴えてる人がいるんだと話してくれた。
そうか、こういうとりあえず誰でもいいから訴えてやる的アメリカ人がいるから企業やお店は「まさか!」こんな事する人いるわけないけど100万人に一人いるかもしれないからそれなりの注意や準備をしていると言うわけか。弁護士いわく訴えてもらったらいいよ、ニューヨークで裁判をするということになったら夫婦でまた飛行機に乗って、ホテルに泊まったりとお金がかかるわけだからそうさせたらいいよ、と気楽な事を言っていた。私も、いくら私の英語の理解力が彼らよりも劣っているとはいえ(しかも奥さんの方はイギリス人、なんかイギリスアクセントに弱いアメリカ人)、メールに書かれたシンプルな文章に間違いは無いと確信した。面倒だったがそれらのメールのやり取りと手紙を添えて返事をした。こうゆう約束だったのにも関わらず私は自分のコミッションからお礼まで(親切で)あげたのに何を考えてこういうことをしてくるのか理解できない、私は本当に悲しいです、と人情に訴えてみた。
すると2週間もたたないうちに「残念ながらこのケースは成立しません」という内容の手紙が来た。最初、当たり前だろ!と思ったがちょっとだけホッとした。だってアメリカって何が起きるか分からない。へたしたら「約束以外のお金を渡すのはルール違反をしたあなたに非があります」、だからあと$5,000支払ってください。ジャン!とかいわれちゃったりしてね、なんてことも考えたりもした。でも、これでアメリカにも一応、正義は存在するのだということが少しは証明されてホッとした。このとき思ったのは、もしも生活している中で小さなミスのせいで事故を起こしてしまったとしても、「事故を起こしたいぜっ!」とか思ってわざとやったならば別だが、何事にも誠意を持って対処すれば、そうそう訴えられる事なんてないし、もし私のようにそうなってしまったとしても、そうなったいきさつをちゃんと理解していれば何も怖い事はないんだと思った。
その後、平凡に何事もなく暮らしてきた私だが、今回は私が訴える側になった。自分なりに誠意を持ち相手の都合なども考えながら対応したにも関わらず残念な結果になってしまった場合、何が一番くやしいかというと、お金のことよりも、こちらが誠意を見せてるのに、自分は適当なことをして、別に許してくれるだろうと安易に思っている人がごまんといるということだ。私が今回のいきさつを説明して自分なりの「訴えてやる」という意気込みを話すと、大抵の人(特に日本人)は、自分もあれこれこういう事になったけど訴えなかった、時間かかるし余計ストレスだからという反応だった。そっか、みんないろいろ大変なことがあってもいちいち他人に話したり、ましてや訴えたりしないから知らなかったけど、平然と生活しているように見えて本当はいろいろあるのね、と思った。私が話すと「私もこんな事があっていつか訴えたと思ってたのよねぇ」なんて10人いたら9人は言う。それでも訴えるまでいかないのは、争うのが苦手な日本人の気質のせいなのか、時間もお金もかかって面倒くさいからなのか、本当のところはよく分からないが、そのことは高い勉強料だと思ってあきらめてしまうケースが多いみたいだ。確かに、訴訟=お金と時間。今回の私は、お金は無いけど時間はたっぷりあるから今回は重い腰を上げたわけだが。。。
訴訟を起こすにはお金がかかるというけど、じゃあ一体どれくらいかかるのか?まず、最初に弁護士を探すことにした。最初は、不動産に関する問題だと思って不動産関係の弁護士をあたってみたが、どうやらそうではなく訴訟を取り扱っている弁護士を見つけなくてはならないらしいということがわかった。少なくとも10人はたらい回しにされとうとうみつけた弁護士がいうには、アメリカには私みたいな人が100万人くらいいて大抵の人が最終的には訴えを受け入れてもらっているけどお金がかかるとの事だった。でっ、「ハウマッチ?」2万5千ドルくらい戻ってきたらいいなと思っているなら5万ドル訴えたらいいよ、そしたら2万ドルくらい戻ってきて自分には5千ドルだけど、もっと自分の費用がかかる可能性もあるという説明だ。ここで私は5千ドルだろうがその倍の1万ドルだろうが「よっしゃ〜ゴーです!」と言ったのに、その弁護士はそしたら最初に$175で手紙(脅迫じみた内容のもの)を書いてあげるよ。大抵の人はその内容にびびって反応してくるからその反応を見てから次を決めればいいということになった。私は$175で様子を伺う事ができるなら今日にでもお願いしますということで早速その日のうちに手紙を書いてもらった。手紙を受け取ってから10日以内に連絡してこないとケースをファイルしますよぉ、大変ですよという内容のものだ。いくらアレックスが間抜けのうっかり者で無責任なやつだとしても、もし彼がこの手紙を受け取って内容を理解したら、それなりにドキッとして何か対応してくるに違いない。
期限日が来た。まさかアレックスが「ごめん、電話の電源がきれてて電話できなかったんだ」とか言って連絡してくるとは思ってはいなかったが、なんと彼がした行動というのは、私の想像を超えるものだった。さくら(たぶん、友人か誰か)をつかって弁護士に電話をしてきた。「手紙を受け取ったが訴える相手を間違えてる。アレックスなんて従業員はいないしケイコのことも知らない。自分はOrbitzという会社のものでそのライセンスで商売をしているものだけど、もしこれで自分が訴えられたら自分は個人情報漏洩による被害者だ!そうなったら自分がアレックスという人間を探し出して訴えてやる!」と言ってきたそうだ。更に、弁護士に「ケイコに自分の電話番号を渡してくれ自分が彼女に説明する」と言ったそうだ。何を説明するんだ?と思ったが。。。弁護士いわくこうなったらまた面倒なのは探偵みたいなのを雇って訴える相手を確認しないとならないからものすごい時間がかかると説明してくれた。ってか、そんなのアレックスが誰かに頼んだに決まってるじゃないか、と思うのは私だけではないはずで、どんなにお金や時間がかかろうが私はそんな事がまかり通るほどニューヨークは乱れてないよっ!ということを言いたいがためにもがんばりたかった。なのに今度は、弁護士のほうがから、2万5千ドル以下の被害は弁護士を通さなくても解決できるからDepartment
of Consumerに自分で被害を報告したらいいよといった。えっ、なんだ、それなら早くそう言ってよと思ったが、要するに最初の一歩は「If
you see something say something」のキャッチフレーズでおなじみのNYCのお助けダイヤル「311」に電話をするということらしい。
「311」なんて利用する人がいるのかと思っていたが、実際に電話をしてみるとテキパキと対応してくれ、すぐに被害をファイルしてくれた。そして10日以内にこういう内容でファイルしますがいいですかという内容の確認の手紙がきた。そこにサインをして送り返すと、今度は証拠等と一緒にこの手紙を送ってくださいという内容のものがきた。そして私も張り切って証拠の資料(電話をかけた回数が分かる明細やメール,契約書、アパートの写真等)を郵送した。今のところそこまでで、最後に手紙類を郵送してから3週間ほど向こうからの連絡待ちをしているところだ。
当初、訴えるには弁護士に莫大な手数料を払わないといけないんだろうと覚悟を決めていたが、結局のところNYCのお助けダイヤル「311」に電話して、無料で訴訟の手続きをしてくれることになったので、「訴える」と言う事は必ずしも莫大なお金がかかるわけでもないという事を学んだ。あまりにもテキパキやってくれるので、知っていたらもっと「311」を利用していたのにと思ったほどだ。ニューヨーク生活でお困りのかたがいたら、「311」に電話してみてください。けっこうテキパキと相談にのってくれますよ。お勧めです。まだ私の訴訟の結果はどうなるか分からないが、10人中6人は「311」に相談すると弁護士をつかわないでもテキパキと法的な処理もしてくれるそうだ。それと今回弁護士を探したときのことについて、いつか読者のみなさんのお役に立つこともあるかもしれないので書いておくと、弁護士を探すために弁護士紹介システムみたいなところに電話すると何人か紹介してくれて、そこで紹介番号をくれて、それを弁護士にいうと一回目の相談は無料になるシステムがあった。なので、とりあえず最初の相談は無料ですることもできる。弁護士といえどもいろんな種類の弁護士がいて、弁護士によってケースに対する対応の仕方も違うから、最低でも3人くらいに事情を説明してみて、どの弁護士が一番うまく対応してくれるかを調べるのもいいとも思った。
というわkで、訴訟の行方はまだどうなるかわからないが、本日、無事に新居で生活している。まだキッチンやクローゼット、しかもシャワーのノブが無い等の未完成な場所だが、不動産エージェントとして一通りの家の購入プロセスを経験していかに買い手や売り手が家の売買という経験を乗り越えていってるのかというのを存分に理解することが出来た。これからは今まで以上に身にしみる思いで家を買う人のお手伝いをできる事は確かだ。
またまたいつもの悪いくせで、いろんな苦労があったわりには、実はもうすでに「次のアパートはこうしよう」などと考えてしまっている。苦い経験だったかもしれないが、振り返ってみるといい経験だったかも。刺激のある生活なんて懲り懲り、平凡が一番なんてついこの前まで思っていたのに何故か次に買うアパートのことを考えている自分を分析してみると、これは出産してあんなに痛い経験をしたのに子供がかわいくて次はいつ生もうかと考えてしまう母親の心理に似ているのでは?とも思った。出産未経験の私には理解し難い痛みらしいが、この世のものとは思えないといいつつ何故みんなあんなに笑顔で話せるのか・・・。出産とアパート購入の経験では、少し違うかもしれないが、「産みの苦しみ」で、こんな苦い経験すべてを我子のように愛しいと思ってしまう今日この頃だ。
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