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満たされるたびに新たな欲望の虜になる。と言うと、なんだか欲望のかたまりのように聞こえてしまうかもしれないが、欲望と言っても小さな幸せを与えてくれるちょっとした欲望のことだ。例えば、あのバッグが欲しいとか、新しくできたあのレストランで食事をしたいという類のもの。こういう欲望は満たされるまでのプロセスが楽しいのだと満たされるたびに思う。だから、あまり大きな欲望は持たずに、小さな欲望をちょくちょく満たすのが楽しく生活する秘訣だと、私は勝手に決めている。
そんな小さな欲望のひとつがおいしい食事。小さな欲望なので、話題のレストランを見つけるとグルメとして是非行ってみたいというよりは、物好きの代表として試してみたいという程度のものだ。2006年マンハッタンの不動産がまだまだうなぎ上りの頃、NYの歴史上もっとも建築費が高かったと騒がれたタイムワーナー・センターがオープンし、そこに入っている数々の「高級」レストランが話題になった。一人あたりの代金が$500は軽いだろうといわれる「寿司雅」や超高級フレンチレストランの「パー・セ(Per Se)」だ。いやぁ、新しいもの、おいしいもの好きの私としては、当時何が何でもそのレストランに行きたくてもがいたが、待っていても招待されるような気配はまったくなし。じゃあ、自分でいくもんねぇ、と、自分で自分にご褒美ということにした。ところが、予約がとれないじゃないの。そうなると余計に私の競争心は燃える。何に対して、誰に対してこの闘争心を燃やしているかは不可解だが、どうしても行きたい。こちらから、この日は空いてますかと言っても無駄。じゃ、いつなら行けます?と聞いてみた。結果、いつでもいいから空きが出たら即効電話ください。電話くれれば、私、絶対に行くからと無謀な予約をしてみた。
そして、そのチャンスはあっという間におとずれた。というか、ちょっとそれは何が何でも急すぎない?という感じだった。いつものごとく朝寝坊ぎみに起き出し、さ〜て今日は何しようか?と考えていたときに「Par Se」からお電話。へっ〜!目が覚めるわたし。『あと45分以内にここにこれますか?』うっそ〜、ちょっと急だけど、目覚めに「Par Se」も素敵じゃ〜ん。いく、いく。シャワーしないで今いきます。・・・。友達と寝ぼけ&髪乱れ状態で待ちに待った「Par Se」に45分以内に足を踏み入れた。何がなんでも45分以内にそこにつかないといけない理由はもうひとつ。電話で行くといったときにクレジットカードの番号まできかれてしまった。しかも、それをすっぽかしたらなんと一人につき$150とると言うじゃないか。地下鉄で20分くらいで着くとはいえ、25分で用意しろと言うのはなんとも強気な発言。地下鉄の中で友達と話しながら、キャンセルで一人$150とるってことは、非現実的な価格なわけで、要は誰もキャンセルなんかしないからそんなに高い価格なのか、それとも$150くらい払っても$1000のランチを食べることを考えれば安いものなのか?もう、値段の価値がわからなくなりつつ私達はとにかくそこに向かった!地下鉄に乗ってるあいだ「うわぁ、とうとういけるねぇ」と序所に気分を盛り上げたが、大体がそんな高級レストランにいくのに地下鉄で行くというのも、ちょっと情けない。
憧れの「Par Se」での食事は、それはそれは素敵な体験でした。でも、終いには、えっ、まだ何かでてくるの?も〜いいよっ、てほどいろんなものが流しそうめんのごとくでてきた。ここでいえるのはイメージというのは味覚もおかしくしてしまうっていうこと。もう食べる前から、超高級レストランなんだから、おいしいに決まってる!と、ド素人の私は思い込んでしまう。そう、今回の「Par Se」の経験で思った事は、とかく付加価値という悪の手は恐ろしい。素人をあれよあれよという間に思い上がらせる、まるで魔法のようだ。素敵な経験だったとは言え、お代金は$350。まあ、これでまた小さな幸せを手に入れて、またがんばって仕事するぞ〜と気力も湧いてくるというものだが、今度は小さいとは言えない欲望に駆り立てられることになった。
みなさんご存知の通り、昨年末ブルックリンのベイリッジにワンベッドルームのアパートを購入した私。先月号でやっと改装工事を始めたというお話をしたが、3月も終わりだというのにまだアパートの改装は終っていない。というのも、今月に入って2度も仕事が中断してしまった。なかなか仕事が進まないので、改装工事屋さんのアレックスには、仕事が終わるまでお金はもう一銭たりとも払わないと決めていたから、彼にどんなに泣き言をいわれても絶対に払うつもりはなかった。ところが、お金を払わないならもうこれ以上仕事は続けられないといって、こっちは毎日時間との戦いだと言うのに、彼は道具を片付け引き上げてしまった。そんな事出来るわけないじゃん、と強気でいたが、夜こっそりとアパートを見に行くと本当にアパートから全ての機材が消えている。でたぁ〜!やられた〜!それからアレックスを探しに探した。アレックスを知る共通の知り合いみんなに連絡をとりまくった。
2日ほど経ってから、いかにも病気っぽい声で、具合が悪かったとか携帯をなくしたとかお約束の言い訳をしてきた。言い訳なんてどうでもいいのに、一応、彼なりになんとなく悪いと思ったのだろう、言い訳をしているうちはまだ人として、この仕事に未練があったということかな。でも、私は戦いに敗れた!どんなに馬鹿にされようが私は買えるものはやっぱり買ってしまいたい。お金をちらつかせてアレックスのモーチベーションが少しでも上がるのであればと思い「いえぃ」と清水の舞台から飛び降りるつもりで、彼にまたお金を渡してしまった。仕事が終わる前にお金を渡すのは一般的ではないと言われても、もう私の心と体はヘトヘトになっていた。バリバリのニューヨーカーというのはこういう戦いにも勝つのだろうが、やっぱり私はただのニューヨークに住む日本人だ。「だから日本人は足元をみられるんだよぉ〜」と言うような声が聞こえてくる。すみません、私みたいな日本人がいるせいで、他のニューヨーク在住の日本人につけがまわってるかもしれません。
そんなこんんで今月の引越し予定がまた没になりそうな気配だ。ここに来て、最初の「よっしゃ〜!おぉ〜!!」という勢いが「なるようにしかならないし。。。私のせいじゃないし」という気分になってきつつある。ここ何ヶ月か頭の中は改装の事で一杯で、あまりあれ食べたいとか、あそこ行きたいといったいつもの欲望が薄れ気味だったはずが、新たな欲望のターゲットが現れてしまった。
その欲望とは、家具。アパートが少しぐらいおんぼろであれ、ある程度の粗は高級家具で補われると知ってから、私は素人興味で家具を見始めた。ファッション好きな私は、自分が身につけるものについては、あれはよくてこれは駄目と私なりの決まりごとがあるが、家具に関しては全くの素人。これいいんだよぉ、と言われれば「へぇ〜、これがねぇ〜」程度の反応だった。ところが、家具好き、またはインテリア大好きな友達に言わせると、「今度こそいい家具を買うべきだよ、いいなぁ、チャンスじゃん?!」とかく押し売りにも弱い私だが、友達から「今度は衣食住の住にお金かけるべきだよぉ」といわれて、住の欲望に火がついてしまった。今度こそエルメス級の・・・。エルメスとはいかなくてもルイ・ヴィトン級の時がたてども古さを感じさせないデザインのもの、それと古くなればなるほどいい味の出る家具が欲しいと思いはじめた。
仕事柄、毎日のようにいろんなアパートを見る機会があるが、不思議と綺麗にデコレーションしてあるアパートはすぐに売れる。立地良し、コンディション良し、でもインテリアがなってない物件のときには、バイヤーに対してはここに自分の家具とライフスタイルをイメージしてみてね、と言ってはみるものの、不思議とそこに上手に自分のライフスタイルをイメージできる人は少ない。大抵の人は価格が少し高めでも、何も家具がおいてない新築か、モダンにデコレーションしてあるまぁまぁの物件を欲しがる。なので、売り手には、とりあえずでもいいから一時的に素敵にデコレーションするようにお願いする。オープンハウスをするときはそのアパートのイメージにあった音楽をかけたり、香りで演出することで同じ物件に付加価値をつける。でも、逆にバイヤーにはそんなことで騙されないようにと注意する。それが私の仕事だ。今度は、私が購入したアパートを売りに出すときのことを考えて、インテリアを考えなくてはならない。私の思いはどんどん家具へと引き込まれていった。
アパート自体がいまいちな分、高級家具で補おうということを決めてから、見始めるとあるじゃないの、次から次へと。へぇ、こんなものにこんなにお金かける人がいるのねぇ、と関心するような値段がついたものがあるわ、あるわ。どんどん家具の世界へと足を踏み入れてしまった。一度それを知ってしまうとこれまたプチ虜状態になり、欲しい、こんなの欲しいわぁと自分のアパートの事をすっかり忘れて、ただただ素敵な家具が欲しいという状態が続いた。寝ても覚めても家具の事で頭が一杯、家具を見る事がマイブームとなり、すっかりそれが定着した頃、「モデルハウスの家具を『破格』の値段で売ります。『至急』、購入してくれる人いませんか?」というメールが、同じ会社で働くエージェントから来た。そのメールには、部屋の写真が添付されていたが、そこに写っている家具よりもその向こうに見える景色をみて「うわぁ〜、こういうアパートに住むの夢なのよねぇ」なんて思ってしまった。どう見ても高級そうな家具だけど、『破格の値段』てことは、私にもチャンスがあるかも?

いったい、どれくらいの値段が『破格』なのか見当さえつかないが、とにかく見るだけならタダだよねと思い、そのメールに返事をした。すると、2日後に見せ始めるから是非見るだけ見てくれという返事。それでも、一瞬だけ慎重になり、この家具のオーナーに失礼がないようにしたいし、あなたの時間を無駄にしたくないから、その破格というのは大体いくらくらいの家具なのか教えてください。というメールをした。その家具全てを購入するのに5万ドルなのか1万ドルなのか、それとも5千ドルなのか・・・?私の中では、千ドル単位のものなら、もしかしたら買っちゃったりしてねぇ、なんて少し期待していた。結局、返事が来ないまま2日後の約束の時間になってしまった。今、思うとメールの返事が来なかったのは、もしかするとそのエージェントの作戦だったのかもと思うが、なんとその場には私しかいなかった。

そのエージェントというのは、金髪で、最近オハイオの大学を卒業してニューヨークにきました。私は正直者ですという顔をした若い女性のエージェントで少しホッとした。そこのビルのロビーも私好みのモダンな感じな上、なんと案内されたアパートはペントハウス!もう、ペントハウスというだけで格別なイメージを持ってる私は、彼女がエレベーターに乗ったときに「PH」のボタンを押して「ヤッホー」と心の中で叫んでしまった。27階にあるペントハウスはなんと360度みわたせるマンハッタンの景色があり、リビングに入った瞬間12フィートある床から天井まで続くガラス窓に吸い付きそうになってしまった。大きなリビングにある白いソファーに腰をかけてみると、「わぁ〜、これ欲しい!きっもち、いい〜。きゃぁ〜!」と叫び、ごろ〜んとしてみたくなるようなソファーだった。そこに寝転びながら見るマンハッタンの景色、最高!!それから、ベッドルーム、マンハッタンの景色が見える広いジャグジーには人魚が腰をかけるような貝の置物、長い廊下にはきっとお金持ちにしか理解できない、私にしてみたらただの枯れ木でも、貴重なアートだと思われるようないわゆる「芸術品」がところどころに飾られている。それをみて「うわぁ〜、ため息が出るほど素敵だけど、とてもじゃないけど私が買えるようなものじゃないわぁ」といって引き払おうとした。

それでも、もう少しこの景色をエンジョイしたいと思い、ソファーに座り「こんな素敵なアパート誰の?」とエージェントに聞いたら「オプラ・ウィンフィーが買ったのよぉ」と教えてくれた。うわぁお〜!さすがは芸能界の大御所。ハリウッドでも彼女の家のパーティーに招待されて嬉しさのあまり涙目になって喜ぶヴィクトリア・ベッカムやウィル・スミスを思い浮かべてしまった。芸能人も泣いて喜ぶ彼女が購入したアパートに私が立ってるというだけで嬉しくて仕方がないのに、そこにあった家具を購入するチャ〜ンス!!買う、買う!これ全部買います。その時、私は自分のブルックリンの、しかもオプラのアパートの5分の1にも満たない大きさのアパートの事、しかもいつ引越しできるのかも分らない、壁なし、トイレなし、床抜けそうなアパートの事をすっかり忘れてしまっていた。勘違いがにもほどがある。私は自分が庶民だということをすっかり忘れてしまっていた。そこにいるエージェントがあまりにもかわいくて私の立場になって話をしてくれているのではないかという思い込みから、だから私も買えるかもという勘違いをしてしまい、人魚が腰掛ける貝殻の置物も、牛の角みたいなアートも、ラッコ制作の枝をあつめてできたと思われるバルコニーのテーブルと椅子も、全て合わせてドンと買ってしまった。なんだか久しぶりに味わうドキドキ感!どうしようというよりも嬉しい!久しぶりに手に入れた小さな幸せ!いや、かなり大きめの幸せ!
でも、幸せな気分は長くは続かなかった。そのペントハウスをでて、地下鉄に乗りながらふと、でっ、あのソファーどこにおくの?ガラスのテーブルどうするの?がぁ〜ん!!何も新居に置けそうなものはないじゃないのぉ〜。そして、さらによくよく考えてみると、あそこにあった全てのものは本当に私が思う最高級なものなのかと聞かれるとそれは疑問だ・・・。素人の考えで、お金持ちが住むアパートだから、私が普段手を出せないような高級な家具を買い、私みたいな人間には到底、理解に苦しむようなアートにも莫大な金額を払うのだろう。って思ったけど。果たして真相はどうなのだろう???足がスラーっと長いモデルが履くグッチのブーツと私が履くグッチのブーツはどうみても同じものには見えない。12フィートある窓から見えるマンハッタン・ビューのアパートに置いてあゴージャスな白い家具は、所狭しと物が置かれるベイリッジのアパートに置いたらただの白い家具になってしまるのでは・・・。怖い、勘違いは恐ろしい。いくら、改装工事のことで身も心も疲れ果てていたとはいえ、私としたことがどうしてもう少し冷静に物事を判断できなかったのかと呆れてします。
普段なら、欲望が満たされて小さな幸せをゲットしたあとには、さぁ〜がんばるぞ〜と新たな意欲がわくのだけど、今回はちょっと大きな幸せだっただけに今はすっかり力尽きてしまった感じが。でも、でも。いい家具がそこにあるだけで不動産の価値が20%は上がるということは断言できる。だから、今度、何もおいてない物件の販売を担当する事になったら意地になってでもこの家具を置こう!バスルームには人魚用に貝を飾り、廊下にはアフリカ産(だと思う。。。)のオブジェも置こう。高級レストラン「Par Se」で学んだ付加価値の魔法を、不動産にも応用して、素敵な家具で付加価値をつけてがんばるんだ!よっしゃ〜!!(気合い)開き直れる自分が、これまた怖い!さて、来月は何をしでかすやら。
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