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自分の体調に耳を傾けずに、遊びまくるJ君。次の日起きたらなんだか気分は優れないけどキャンセルするのも面倒だからとりあえずは出かけよう。。。っていうかさぁ、成人になってから酔っぱらってない人がゲロを吐くというのを見たことがないからどのように対処するべきなのかわからない。経験が浅い?じゃなっくってさ、普通経験しないよね。だからなんと慰めていいのかもわからない。結局私は無口になってしまった。一応、しゃべりすぎて返事をさせるのもかわいそうだし、という素人なりの配慮。
彼を車から降ろしてからずっと考えていた。もう、二度と彼には会いたくない。会ったところでどんな会話をすればいいのかも分からないと思った。今になってみるとそんなことでモヤモヤしていた自分も大人気ないと思うが、最初からリバーデールなんてところに氷点下10度(っていうか体感温度は八甲田山並みだっただろう)と思われる日に行く自分も間違っていたんだ。仕方ない、知り合いに頼まれていたとはいえ彼とは縁がなかったということでもうお別れしよう。一人でドラマモードに入っていった。その経験は、私の長い不動産セールス史上でも、ワースト3に入るだろう。いまだに、あの光景が脳裏をよぎると、ハッとしてしまうほど。
珍しい経験をしたことを何人かの友達に話してみたが、誰に話しても「えっ!」といって一瞬黙ってしまう。「。。。でっ、どうしたの?」となるが、どうすればよかったのか私が聞きたい。最初はJ君のことをちょっとかわいそうだと思っていたけど、本当にかわいそうなのはそんな事を体験させられてしまった自分の方だ。。。そんなことを考えていると、なんというか哀れな気分になってきた。でっ、私って何?・・・。っていつまでも沈んでる場合じゃない。「よっしゃ〜!ゲロまで吐かれだんだからどんな事があっても、私から物件を買ってもらおう」と24
時間以内に決心した。 ザ・正負の法則。(By美輪明広)
悪夢の週末が終わり、気を取り直して月曜日に J 君にメールをしてみた。「月曜日ですが、会社行ってますか?」みたいな感じで。どんな返事がくるかドキドキしながら待ってると、彼はなんの恥じらいもなく、「いやぁ、ゲロを吐いたらあの後すっきりしてさぁ、凄く元気になっちゃったよぉ」とのこと。終いには「ランチ代は私が払ったんだろう?」と聞いてきたので、「あたりめぇだよ」と心のなかで叫びつつも(しかも、莫大なチップも払いました!!)、冷静を装い「そっ、私のオゴリよ」みたいに優しい日本人女性を気取ってみた。がっ、しかし彼は「あそこで一口だけだったけど口にしたスープが悪かったからゲロを吐いたんだって、文句をいってお金払わないでこれたよなぁ」だって。ってさぁ、おめーよぉ。いくら仏の心をもつ私でも(自称!!)久しぶりに脳の血管がピーンと張り詰めてもう切れる寸前だった。普段は気がちって何の役にもたたないヨガのクラスだけど、そこで学んだ呼吸法を思い出し、私は必死にスーハァーと何度も深く呼吸して、なんとか自分を抑えたのだった。それを聞いて、より一層、私の営業魂が燃えあがった。もう、この人には買ってもらう!売らずしてこの男を逃すわけにはいかない!そして私は最後まで彼のお守りをしよう、長い人生でたった二ヶ月くらい我慢すればいいのよ、と自分に言い聞かせて自分を慰めた。
気分が悪いなかでリバーデールに行ったからではないが、 J 君はあまりその地域を気に入らなかったようだった。でっ、次はクイーンズを見せろとか、ニュージャージーを見せろとか、終いにはペンシルバニアに引っ越したいとかまったく意味不明な事を、朝から晩まで休みなしにメールをいれてきた。がっ、すべてを無視して私は彼にブルックリンのみを勧めた。なぜならば、どう考えても彼のライフスタイルを考えるとそれ以外にベストなお金の使いかたがないと思うからだ。心の奥底では「知るかぁ、どこでも行ってしまえ〜!」と思いつつ、やっぱりブルックリンならあとあと困らないだろという配慮。少なくともブルックリンのことはよく知っていて、これから10年、いや20年後くらいにはこんな感じになってるんではないかと大体の予想もつくし、価格もドンピシャでこれならいけるというところまで下げられる自信もあった。彼のようにお金を持っていても、レストランであんなに迷惑をかけた自分の事を棚にあげ、あのランチはタダになったはずだよ、と平気で言ってしまうようなケチな男は、物件を買うにあたっても普通のものでは納得をしないということは、私は心得ていた。彼の欲求を満たす物件を探すのは、実をいうと彼のそんな性格を心得てからは、そんなに難しいことではなかった。だって、なんでもいいからブルックリンで価格が比較的割安な地域で、ボロかろうがなんだろうが広いところを見つければ良かったからだ。
そうと決めたからは、クレイグス・リストから割安な物件を4件ピックして、早速仕事の後、地下鉄でブルックリンまで来てもらうことにした。2月のアフター・ファイブといえばもう右も左も分からないほどあたりは真っ暗、しかもその日は雨!それに加えて彼は、当日オフィスをでるぎりぎりまで、あれも見せろ、やっぱりクイーンズにも付き合えと、最後の最後までブルックリンに来るのを拒否しているようだった。
「もう、つべこべ言わずにとりあえずこ〜い!」という勢いで彼の迷いをひとつずつ取り払い、やっとの思いで彼をブルックリンまで来させることに成功。凄い勢いで4件を見終わったところで、「でっ、感想は?」と彼に求めると、当然のごとく、あそこが駄目だ、ここが駄目だと、最もらしい言い訳をしてきた。だけどそんなこと私には通用しないのだ。クイーンズがいいだとか、ブロンクスがいいだとか、やっぱり思いきってニュージャージーの奥地に引越しするだとか、言っている彼を横に、もう私は聞く耳持たず。バジェットがあるから選択の余地があるぶん迷い始めたら止まらない彼。時間がないのにあれこれ迷っているが、はっきりいって私は今日彼に会う前から、ここにこれくらのものを購入するべきだと勝手に決めていた。そしてそれを現実化する為にいろいろシュミレーションしておいた。
考えれば考えるほど彼にぴったりな物件がある!次の日にとりあえずオファーをしてみようと誘ってみた。ゴルフ好きのJ
君は普段の生活においてもゲームが好きだ。だからゲーム感覚で楽しんでもらうのが一番と考えて、「とりあえずゲームの感覚でオファーしてみましょうよ」と言ったら、「おっ、いいね〜」とだんだんと乗ってきた。私の中では、セラーが彼のオファーを受け入れてくれることは、最初からなんとなく予想がついていた。それで彼に、いかにゲームのようにルールを理解した上で、作戦を練ってプレーするべきかを話すと、もう何でもいいからそのゲーム取り合えずやってみようよとJ
君。いかに頭脳プレーでいい物件をゲットすることが出来るかと話すと、ますますやる気を見せてきた。
作戦大成功!オファーは無事受け入れられ、次から次へと今まででも記録破りなスピードで物事が進んでいった。最初にコンタクトしてから2ヶ月後にはもうボードからの了解も得て、後はクロージングだけとなった。なのにここに来て、急に何が気に入らなくなったのか、彼はおじけずいて気が変わったけどどうすればいいんだと言ってきた。今まで、優しい日本人女性を装っていた自分(しつこい?!)だが、ゲロを吐かれた上に、雨の日だろうが風の日だろうが彼のために時間を費やしてきて、ここにきてまたまた私を困らせるような事を平気で言ってるJ
君。まぁ、彼は生活にスパイスがないと駄目なんだろうと思い、彼には次の試練を与えることにした。クロージングまでが時間の戦いで、その後すぐに改装をしてみんなが欲しがる物件にして、その次はいかに高値で売るかに挑戦するべきだと言ったとたんに彼にまた別のマイブームが来たようだ。
J 君は、F ラインとプロスペクト・パークに近いケンジントンにプレワー(Prewar)の1ベッドルームを$212,000
で購入することができた。少々手入れをしなくてはいけないものの、ボードはいたって理解のある人たちの集まりであったこと、マネジメントカンパニーのエージェントも久々のビルディング内のセールスだったのかなんだか知らないが、とっても親切に対応してくれた。余談だが、売り手のオーナーには会った事がなかったが彼が巨人であることはベッドルームにおいてたった軽く33
センチはあるだろうと思われる靴から察しがついた。 これで当分 J 君と話しをすることもなくなるだろうというワクワク感は勿論、クロージングの日にその大きな靴をはくジャンボに会うのがとっても楽しみだった。実際に会ってみるとジャンボは身長も2メートルは軽くこしていた。体の大きさに比例して、ジャンボはとっても大雑把な性格。J
君がこまごまとクロージングのときに話している横で、ジャンボは、うん、うんと頷いて、とっととこの小さな部屋からでていきたいというノリでなんでもかんでもサインしていた。
結局、記録破りのスピードクロージングで無事に不動産を購入することができた。 J 君と出会っていつが一番楽しかったかというと、このクロージングが済んでマンハッタンまでの帰り道だった。クロージングが終わって二人で駅まで歩いているときに
J 君の携帯が鳴った。彼は「ちょうどいいところに電話してきてくれたねぇ、今ちょうどクロージングが終わったんだよ。」みたいな事を壊れたテープレコーダーのようにゆっくりと話していた。電話を切ったあとに彼は、あっ、今のガールフレンドから。。。というので、へぇ〜とあまり興味のない返事をした。ところが私を驚かせてくれたのは、その彼女というのが日本人で、自分よりも13歳も若い子だということ。あれほど、ラテン系の女以外は女と思ってないと言っていた彼が。。。それと何がおかしかったかというと、彼女は、「日本食ならここでしょ」と私が彼にお勧めしたレストランのウエイトレスだったこと。ひそかにチェックするときは、女性であればボーダレスにさがしてるじゃ〜ん!?しかも、人生で一度もガールフレンドと一緒に生活をしたことがなかった彼のところに、彼女がいきなり引越ししてきたこと。でも、ちょっと自分勝手なJ君には、もしかしたらこうやって自分以外の人の都合も考えながら生活するのはいいことなのではないかと、他人事だが思った。J君を見ていて、人というのは意外にも自分の事を理解しないで、大人になるもんだと思った。私自身、自分の事はあまり理解していないのだけど、仕事がらいつも人のことはよ〜く観察している。そして思うのは、生活に変化があるときに自然ととる行動が、もしかしたら一番、自分の姿を映し出すのにいい機会なのかもしれない。そうか、私も今度そういう機会があったら、よ〜く自分を観察して、もう少し自分のことを理解する努力をするべきだと考えるようになった。 |