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「継続は力なり」。ジョンがやっとのことで晴れてホーム・オーナーになった日、この言葉が頭を過ぎった。この二年の間、何度もホーム・オーナーになるのを諦めかけたり、そうなれない自分を情けないと思ったり、人をけなしたり、怒鳴ったりした日もあったけど。あ〜、良かったよ。これで彼も立派な不動産オーナーとなりました。駄目だ、駄目だと思っても、粘り強く同じことを繰り返していくうちに、あら不思議!人ってやればできるもんなのね。私もまたお客様と共に学習し、成長させていただきました。
前回までのお話しでは、二度もオファーに失敗して、なんだかやる気なぁし、不動産なんていらないもんねっ、ていう雰囲気ムンムンのジョン。その後、何度か頑張りましょうよと励ましの連絡を入れても、「あ〜」とか「う〜」とかっていう言葉が返ってくるだけ。もう私の事嫌いになったのねっ!みたいにまるでガールフレンドのごとくジョンにむくれてみたところで、知ったこっちゃ〜ない。まぁ、やる気満々のエージェントにしつこくされてるわけで、彼の冷たい反応もごもっともなのだけど・・・。ところが、彼のお母さんはというと、遠く離れた土地からなかなかよい不動産を手に入れられないで傷ついてるだろう息子のことを思えば思うほど、息子が安心して住める場所を余計に見つけてあげたいと考えてるご様子。やる気満々でがんばっていた私だけど、さらにその上を行くお母さんの盛り上がり方に「ケイコさん、いいのがあったら、もうオファーして頂戴ね」ってな具合にプッシュされても、「いやぁ、そうですねぇ、まぁ」ってな感じでいまいち力が抜けてしまうこともあった。
人は不思議なもんで、誰かがあまりにもやる気満々だとそれをみているだけでこっちはやる気が抜けてしまうって事ありませんか?例えばすでに盛り上がりまくっているパーティーに後から行って、ぽつんと後から来た自分達は、さむ〜、なんかこの盛り上がり具合がすでに寒いよねぇ。なんていう事ありますよね。それに似ている。いつもの自分なら先頭きってバカ騒ぎするはずなのに、私の知らないところで始まってしまってる騒ぎにはなんか入りずらい。あまり、熱い人間を前にすると冷める。好きだ好きだといわれると、嫌いじゃないのに、もしかしたらこの人嫌いかも?と思ってしまうような・・・。勿論、普段の私はセールスがお仕事だから「常」に一人で盛り上がってますけど。ところが、たまには、超盛り上がってる人を前にすると引いてしまう事もあるって訳で。でっ、盛り上がってるお母さんには申し訳ないのだけど、少しさめた口調で「まぁ、アパート買うのも縁ですから」と言って、落ち着いてことの成り行きを見守るように伝えた。
そんなこんなで不動産にはこれまで縁のなかったジョン。ある日、私の脳裏をフッと横切ったのは、これまでマンハッタンのアルコブのスタジオのみを探していたが、すでにジョンはブルックリンっ子ということもあり、ブルックリンのスタジオでもいいんじゃないの?という気になってきた。それで検索するとあるある。しかも値段を一気に$150,000
くらい下げても充分に満足のいくビルディング。まるで発明博士のごとく、薄暗くなった私の脳にパチッと電球の明かりがともされた感じがした。
ご近所という事もあり私はお母さんには内緒でジョンと二人で密会をした。仕事の帰りにちょっと軽い気持ちで立ち寄ってみてよ。そのビルのことは良く知っている私だが、ジョンに気に入ってもらえるか心配だった。でもまぁ、肩の力を抜いてちょっと見るだけ。ところが、私の想像した通りの展開に。私もジョンも万歳したくなる程気に入ってしまった。駅に近くて、24
時間ドアマン、ビルの雰囲気がアールデコ調でとっても素敵。スタジオながら、天井も高く、窓も大きいからかなり広く見える。しかも、何を一番気に入ってくれたかというと同じ階にランドリー・ルームがあること。唯一の欠点はというと他のブルックリン・ハイツにあるスタジオのアパートに比べると管理費が高いということ。それでも、15
万ドル多く出してマンハッタンのスタジオ・アパートを購入した場合のことを考えると、月々の管理費が他と比べて$100
くらい高くてもそんなには気にならない。ジョンも私も有頂天でオフィスに戻り、他にオファーが出ているかなんて事を確認する前に、「これはマストでしょ」ってな具合で、いきなりアスキング・プライスよりも$5,000
高くオファーしてみた。
これでブルックリンで落ち着けるね、しかもこの値段なら自分の給料にも見合った物件だから、お母さんにあまり迷惑をかけなくて済むし、安心だ。オファーをしてから返事がくるまでいろいろと想像を膨らませ話が弾む二人。だがっ!なんと、値段は低いがすでにオファーしてきてる人がいる、と言うではないか。私は当然のごとく、高い値段をつければこっちのもの。私達のもんでしょ。と強気でいたのだけど、なんと、嘘みたいな話だが、値段が低いにも関わらず、最初にオファーした人に決定してしまった。私とジョンは、」パードン??」「えっ、今何て言いました?」耳を疑い何度も「パードン?」そう、50人に1人くらいはいるんです。何故か低いオファーを受け入れる売り手。そういう売り手の心理はイロイロだが、値段を最初からつりあげてオファーする人ほど信用できないものはない、みたいな感じでしょうか。そんなバカな。でたぁ〜と思いきや、悪夢のようだがこれが現実と受け止めるしかありません。
お母さんはというと、これを売り手の人に見てもらってといって、銀行のステイトメント、お母さんが所有する不動産の証書、保険の証書等ありとあらゆるものを私に送ってきた。それともう一つ、お母さんから売り手の人へのお手紙。大きく手書きで書かれたその手紙の内容はというと、ジョンがいかに可愛いか、お父さんとお母さんはニューヨークにいる彼に会いにいくのにエレベーターのアパートではないと駄目(なぜならば年寄りだから?)とか、母がニューヨークでの息子の成功をこのアパートを購入する事によっていかに手助けになるかという事が書かれていた。それにも関わらず、私達の願いは通じる事は無かった。3
度目の正直ならず。もうこんな運命にたたされた私達は呆然とするしかない。検索の視野を変えて気に入った物件を探せたのに、今度もまたオファーを受け入れてもらう事すら出来なかったなんて。
結局ブルックリン・ハイツのビルは大きいビルで世帯数も多いから、たまに売り物件がでるということもあって、同じビルで似たような物件がマーケットにでてくるのを待つことにした。途中何度か浮気をして別のビルの物件を見に行ったりしたが、なかなか条件にあう気に入った物件をブルックリン・ハイツで見つけることは出来なかった。そんなこんなしているうちに、ジョンと初めて会ってから1年がたっていることに気づいた。何故初めて会ったときのことを鮮明に覚えているかというと、初めて彼にあったときに話弾んで、一緒にストリート・フェスティバルに行ったからだ。ブルックリンのアトランティク・アベニューのストリート・フェスティバルはアンチ・ストリート・フェスティバルの人もつい行ってしまうような内容盛りだくさんのフェスティバルで、ブルックリン・ハイツよりのアトランティク・アベニューはというとバーが沢山あっていつも見ない顔ぶれで一杯になる。しかも、何故かペット可のバーもあり私の愛犬の話をしていたらジョンがうちの元・捨てられてた犬に是非会いたいということでそこのバーに他の拾われ犬も同伴し、盛り上がった覚えがあるからだ。ゲッ!あれから1年、ただ友達みたいにしているうちに何も成果がないまま1年過ぎてるじゃないの。アニバーサリーだと喜んでいる場合じゃない。どうにかせねばと少しまた知恵を絞ることにした。変なこだわりを捨てて、新たに検索をしよう。
そこで行き着いたのが、今度はブルックリン・ハイツ以外の地域で彼が探している価格内のワンベッドルームの物件を検索してみることにした。地域は希望とはちょっと違うけどマンハッタンよりも、ブルックリン・ハイツよりも広いところに住めるということで長い目で見るともしかしたらいいかもよっ、という事を歌い文句に新たに希望を持ってもらう事にした。すると価格はマンハッタンでスタジオを探していた時の価格に戻るが一人で住むには贅沢なくらいの広いワンベットで、しかもマンハッタンでいうノリータに匹敵するようなお洒落なスミス・ストリートの直ぐ近くにいいビルを見つけた。もう、オファーに慣れっ子の私達は、有無を言わずに「ハイ、これお願いします」みたいな軽いノリでオファーしてみた。この頃になると、不動産ドラマに慣れっこになってしまっているジョンとお母さん。だから、私のせいではなくてこんな事が起きてしまうということを充分に理解している分、期待もしていない。話を短くする為にいきなり結果からいうがなんとマーケットにでてから1週間とたたないうちにオファーしたにも関わらず、もう買い手がいるという事でおじゃん。そこのビルも300
近い所帯があり、しかもみんなワンベッドまたはツーベッドなので確立的にいうと、近いうちにまたワンベッドの売り物件がマーケットに出てくる可能性が高いという事で待つことにした。それから同じような物件を2
度もオファーしたにも関わらずゲットできなかった。毎回、売り手に正当な理由があるのだが、こうなったら顔が悪い、声が悪い、字が下手とか、それ以外に何も考えられない状態になっていた。
夏になり、みんながバケーション・モードに入ってるときに、半年前くらいにオファーしたエージェントから連絡があった。いろいろあったけど結局、最初のバイヤーが買わなくなったから、ケイコのお客さんがまだ購入していないならその権利を譲るという事。これまた「パードン?」しかも、こんな忘れた頃に連絡されても。と言いつつ、半年経ったいまでも何もゲットしてないジョン。彼にその話をすると、もう慣れっこのジョンは「オッケー!」と立ち直りが早い。しかも「まぁ、買えるなら買うけど、買えなかったらいいよ」と、まるで挫折キングになっている。挫折慣れてますってヤツ。そして私まで挫折クイーンになってしまっていたが、2人で何度も同じ挫折を繰り返していくうちにだんだんと慣れてきて、そして最初にくらべて免疫力がついてる為か、疲労度も極力少ない。んじゃ、いつものようにやりましょね。ってな感じの軽いノリで全てをこなしているうちに本当に契約書にサインをすることができた。実はオファーが受け入れられてたにも関わらず他に高い値段でオファーがきてその物件を逃した事も経験しているため、契約書にサインしようが、別に信用してませんよっ、というノリで毎日少しずつステップを踏む。ボードパッケージも提出し、インタビューも済んだ。それでもこれは夢なんじゃないかという気持ちでいた。クロージングの前にファイナル・ウォークスルーというのをしてアパートの状態の最終チェックに行った日も2人で、夢じゃないよねと話していた。
とうとう、クロージング。次から次へとサインをしているジョンの姿をみて、なんだかライブ・スポーツをみている気分だった。心の中では何もおきませんように、ヨッシャー!!とガッツポーズをとったりしていた。これほど、購入を何度も諦めたお客さんはいなかった。私も諦めたし、当然、本人も諦めた。まだ購入するのに早いんだよといいつつ、そんなことは無いわよ、お母さんが付いてるんだからと母に励まされたり、お母さんが、息子が買えないなら私がニューヨークに引越しして1人で買います!と言ったり。イロイロあったけど、あきらめないで何度も同じ事をくりかえしていくうちに最後には焦らず急がずと自然に不動産購入のステップが実についていたジョンは、無事にブルックリンハイツのアパートを手にすることが出来た。私はというと、ジョン親子との出会いで「継続は力なり」を身を持って体験させてもらったのだった。 |