|
毎年、感謝祭の時期になるとつくづく実感させられるのだが、アメリカではこの頃から始まって、クリスマス、お正月までのホリデーシーズンの期間、何故かアメリカ人は仕事よりも家族や友達を優先して堂々と仕事を休む傾向にある。そう思うのは私だけだろうか。日本ではこの時期は、「師走」といって普段は走る事もない師匠も走るくらいに忙しい時期のはずだけど、ここニューヨークを含めアメリカではみんなが一世にお休みモードに入ってしまう。幸か不幸かナオミさんが最初の物件探しにニューヨークへやってきたこの時期はちょうどホリデームードまっただなか。最初のコープ物件へのオファーが却下され若干諦めムードのナオミさんを勇気付けながら、次から次へとアポをとる為に電話をするのだが、もう仕事はお休みモードのニューヨークでは、相変わらず、売れたとか来週なら見せるけど今週は駄目だとか、やる気のない返事ばかりだった。
そんなとき、ウェブの掲示板サイト「Craig’s List 」を見ていたら“ケンジントン、スタジオ、$155K
”というのに遭遇した。「Craig’s List 」は、ルームメイト募集のお知らせから求人広告までありとあらゆるお知らせが無料で掲示できるサイトで、賃貸にしろ購入にしろ不動産を探している人は必ず一度は訪れるサイトだ。無料で広告を出せるということで、かなり不真面目な内容のものも多く、それを真に受けていちいち電話をかけていると人間不信に陥ってしまうほど。というのは大袈裟かもしれないけど、あまりあてにはできないのでご注意を。普段ならそんな広告は読み流してしまう私だけど、ホリデームードでマーケットに出ている物件が異常に少ない状態で、もうこれでもかというほどに二人で検索しまくっていたところだったから、半信半疑ながらもうどうにでもなってくれという投げやりな態度で電話をしてみた。
電話に出たのは、力の抜けているようなお爺さん。エージェントである彼いわく、なんだか今風邪をひいていて外に出れないから、アパートのオーナーに君たちが来る事を伝えるから勝手に見に行ってくれないか。との事。風邪ですかぁ、お気の毒に。とことん性格のひんまがってきている私にそんな仮病は通用しない。でも、年寄りっぽいから許してやるか。でもさ、これで年寄りだと思って気を抜いてると、行ってビックリなんてことになるかもしれないし、そうしたらこのブルックリン大好きの私でさえも、ブルックリンの不動産エージェントのやる気のなさには嫌になっちゃう。って思っちゃうよねぇ。でも、ナオミさん騙されたと思って最後の力を振り絞って見に行こうよ。
一週間、力の限り不動産巡りをしていたナオミさん。最初のオファーがうまくいかず、天に舞ったかと思った瞬間、地獄に落とされるような気分を味わった後だったので、あんまり期待をかけすぎないように、ナオミさんに「ケンジントンになんか良さそうなのがあって見に行っていいって言われたけどどおする?」と聞いてみた。「え〜、いいですよぉ、いきまぁす」と気の無い返事のナオミさん。そりゃそうだ、私を信じて見に行こうと言われても、「またかよっ!」ってなるかもしれないわけだし。でも心優しいナオミさんは、気を取り直して物件を見に行くことに承諾してくれた。日曜日の午後に、私は車でナオミさんはサブウェイで現地に向った。ビルディングに着くと、「えっ、意外と悪くないじゃん?」あまり期待は禁物だけど、ビルの第一印象は合格かもね。5
階に上がってアパートのドアをノックすると、オーナーだというかわいいらしい、いかにもカレッジ行ってまぁす、という感じのエネルギーが満ち溢れた女の人がドアを開けてくれた。早速中を拝見すると、そんなに広くないけどとっても綺麗に使っていていい感じ。えっ、これまたいいかもね!うっそ〜、いいよぉ〜!!ねぇ、ねぇ!と二人で手を叩いて喜びたいところだったが冷静を保ち、オーナーには「じゃ、あなたのブローカーに連絡します」とクールに言ってみた。外に出たらナオミさん、「ケイコさ〜ん、私これ買います。なんか風邪ひいちゃってるからあまり正しい判断ができないかもしれないけど、良かったよね?」と聞くので「じゃ〜、またトライしよう!」ということに決定。
早速、ブローカーに電話するとこれまたちょっと具合の良くないお爺さんの気の抜けた声が。私はすかさずすごい勢いで、オファーを出したいという旨と、バイヤーは外国に住んでいてアメリカで仕事はしてない、だけど日本では仕事をしているし、購入に充分な額のモーゲージがプレ・クオリファイドされているという事を話した。話している途中にふと、このお爺さんの働きぶりを考えるときっと他にオファーがないとみて、安めにオファーしてみた。すると、一瞬のうちに返事が「あ〜、いいよ」って、あんた、オーナーに聞いたら?っと思ったが、きっと彼は彼女とどれくらいまでの金額なら落とせるとかいう事も話してあったに違いない。なんと破格の値段でオファーを受け入れてもらえた。なんだか良くわからないけど、ラッキー!早速ナオミさんにその旨を連絡する。「なんか怖いなぁ、本当に?でも嬉しい。がんばります!」
そろそろナオミさんが日本へ帰る日が迫ってきていたので、その前にナオミさんには弁護士に会ってもらって、「Power
of Attorney 」という書類ににサインをしてもらう必要があった。これさえあればナオミさんがニューヨークにいなくてもて弁護士がクライアントに代わって購入関連の書類にサインをする事ができる。それによって時差なく作業を進める事ができるのだ。ナオミさん、とりあえずしなくてはならない事を済ませた日にはなんだかクタクタで嬉しいというよりも、全力使い果たしました私というルックスになっていた。「ケイコさん、これからはメールで連絡お願いします」とだけ言い残して日本に戻っていった。
物件が決まり、契約が済んでからボードパッケージの準備をしなくてはならない。これはアメリカに在住で、立派に社会人をしていても経験者に言わせれば“The
most embarrassing experience in your adult life” ( 成人してから最も恥ずかしい経験)
というくらいに、全てをさらけ出し、マネージメントエージェントからは、まるで子供がおしおきでもされているかのような扱いを受ける。(ということを覚悟していると楽かも?)覚悟をしていたわりには何故か珍しくマネージメント・エージェントは日本びいきなおばさんでケイコ、ナオミときいただけでなんだか「あら〜、日本人?うちには日本の留学生がいた事があるのよ」とのこと。その留学生に私は感謝した。彼女が日本人として恥じないアメリカ生活を送ってくれただけで泣く子も黙るマネージメント・エージェントをまるで私は魔法のようにリードしているじゃないの。ついつい忘れがちだが、外国に住んでいる私たち日本人は常に日の丸を掲げて生活しているということを忘れちゃいけないんだと再認識した。こうやってどこの誰だかしらない日本人のお陰で、私は今までに経験のないレッド・カーペット並の待遇を受けたのだ。サンキュー!恐る、恐るパッケージを提出すると、エージェントのおばさんは「目を通して何かあったら連絡するわね」と優しい声で言ってくれた。なんだか今だに狐につつまれている気分。いつ化けの皮が剥がれるのかとびくびくしている私のところに連絡がきた。「ナオミはインタビューに来れるわよね」「ハイ、来れます!」と返事をしてみたけど本当にそんなに上手い話があるものか?
あれよあれよという間に事はすすみ、ナオミさんは無事インタビューのために再度ニューヨークを訪れた。ちなみにインタビューを設定されて駄目になるケースというのは5%以下、要するにあまりビクビクしないでありのままで望むべきだが、やっぱりなんかあるよねぇ、と最後の最後までなんだか今ある状況を疑ってかかっている私たち。アパートを初めて見たときは天にも昇る気分だったのと、風邪ぎみて頭がフラフラしていたナオミさん、日本に帰ってからアパートの事を思いだしたいけどあまり覚えてない。という事で、オーナーに連絡をしてもう一度インタビューが終わった後にオーナーに見せてもらう事にした。インタビューを終えたナオミさん「なんか凄くみんないい人なの。オーナーの女の子も凄くいい子でいろいろと近所の事教えてくれたの。なんかブルックリンっていいところじゃ〜ん」って。ドキッ!まさか今日まで乗る気じゃなかったの?
インタビューにも合格して無事にクロージングの日が来た。本人が立ち会わないクロージングだったが私はその場に是非とも立ち会いたかった。何故ならば、一度も顔を見た事のなかった売り手のエージェント(一体、彼は本当にお爺さんなのか?)と、マネジング・エージェントのおばさんの顔を一目見たかったから。私の想像していたエージェントはちょっと白髪交じりで、ローラ・アシュレイのワンピースをきてるみたいな(って、そんなアメリカ人ニューヨークにいるか?)人を想像していた。エージェントのお爺さんはまさにお爺さんで、とっても優しいお爺さんだった。(
しつこい。。。) もう、50 年近くブルックリンでエージェントとしているとの事、まさに生き字引のような、化石のような人だ。私はユニコーンでもみたような目で彼をみつめてしまった。そしてエージェントのおばさんは、あぁ〜!爪のびのび、しかも真っ赤!髪はスプレー毎日使いまくってオゾンを厚くしてます、おばさんだけどお買い物はティーン・エージャーの孫と同じお店で買うの!だって私、スタイルは30
年間変わってないから。みたいなおばさんではないかぁ。私を見るなりなんだか懐かしそうに、優しい目つきで私をみてくれた。しかも、今度ランチでもしましょ。って。人って見かけで判断しちゃ駄目ね。もしかして本当にこの人はいい人なんだ。(勿論、後日彼女とランチをした。その時、日本から来た留学生の話を懐かしそうにしてくれた。)売り手の女の子は両親が付き添いで来ていた。家から大学に通う事も可能だけど彼女にこういう経験をさせてあげたかったとの事。凄い!ただの経験だけの為の不動産投資かぁ。でも、彼女は就職前に充分に利益を上げて大学生活にピリオドを打つ事ができた。
これは予断だが、数日後にメーシーズで買い物をしていた私は、どこかで見た事あるけど、誰だっけ?という人に遭遇した。その時は思い出せなかったがサブウエェイに乗って、フッとした瞬間に思い出した。あの親子じゃないの。そっか、あの若さであれだけの利益を上げた褒美にニコニコしながら買い物をしていたんだ。ニューヨークに理想のアパートを手に入れたナオミさんと、ブルックリンの汚名を挽回できた私。みんながハッピーになれたのは偶然か、それとも神様からのホリデーのプレゼントなのかも。と普段は無信心で無宗教の私だけど、この年のホリデーシーズンは特別に思い出深いものになった。 |