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世間で大人といわれる年齢になってかれこれ長いが、大人になってつくづく思うことは、大人と呼ばれる人達はなんとそれぞれ個性が強いのかということ。とくに私が大人になってからここニューヨークで長い時間を過ごしているからそう思うのかどうかは定かでないが、ニューヨークにいる大人と呼ばれる年齢の人は、みんないろんな事情を抱え、その事情をそれぞれの違う個性で解決をし、生活をしているように思う。前回でお話しした待つのが大嫌いなトムも、私が知る限りでは大変個性の強いニューヨーカーの一人だと思う。
そんなノンストップな彼にも、どうしてそこまで急いでアパートを購入したいのか、実は事情があった。それは、「離婚」。トムは離婚を機に、アッパー・ウエストにあるアパートを売り、利益を別れた奥さんと半分にし、そのお金でケンジントンにあるアパートを購入しようとしていた。購入に関するプロセスはトムのマイウェイ戦法(前号参照)によってあれよあれよという間に進められ、インタビューの日までの時間はなんと1
ヶ月とかからなかった。これは、普通のプロセスの半分以下の時間だ。普通に考えるとそんなのありえないと思うような短時間だが、普通に物事を進めるのがあまり好きでないトムらしい進行具合だ。
コープのボートとのインタビューも、一般的にはボード側がボード・メンバーの集まれる日程を決め購入者に連絡をするのだが、なんとトムは自分でこの日がいいと指定したらしい。その話を聞いてちょっと驚いてしまったが、それでボードのメンバーが了解してくれたのなら問題ないといえば問題ないのかもしれない。特にサプライズもなくインタビューの日が来た。当日、会社が終わってからインタビューに行く予定になっていたトムは、朝から何度も私に電話をしてきた。今更だけど、さすがのトムもちょっと緊張していたようだ。最後に子供を試験会場に送る母親のような気分で「グッド・ラック!」とだけいい、彼をインタビューに見送った。夜7
時からのインタビューだったから、8 時くらい、または9 時くらいになって落ち着いたころにインタビューの様子を聞くために彼に電話をしようと心構えしていた私だが、なんとっ!7
時3 分くらいに私の携帯が鳴った。しかもトム!「えっ?どうしたの?インタビューは?」と思わずあわてて開口一番に聞いたら、「パスしたよ」。パスしたって、「何を聞かれたの?」と私。
その日、例によって短気なトムは約束の時間よりもかなり早くアパートについたらしい。そして、勿論だが彼は待ちきれなくて、アパートのドアを叩く。すると中から「今、シャワーから出てきたんだけど・・・」と言いながら、ボードメンバーのおじさんが頭をタオルで拭きながらドアを開けたらしい。自分が7
時からインタビューする新しいオーナーの候補者だと言うと彼は、「オーケー」といい、「マネジメントカンパニーに連絡するから」といってドアを閉めたそうだ。それでインタビュー終了。
もう、気が短いのは性格だからしょうがないとしても、とっても非常識な話で聞いてるだけでなんとも気絶しそうなお話しだ。なぜかこれがトムには通用してしまう。彼にはHow
to 本というものが必要ないし、きっと読む気もないのだろう。ガイドラインがあったとしてもそのラインもきっと見えない、あるいは見ようとしないはずだ。それでも、彼がこのマイウェイ戦法によって無事にアパートを購入し、新たなバチェラー(アゲン)生活をここで始める事ができるのならば、私はいままであった嘘のようなシチュエーションはすべて忘れて、笑顔で「おめでとう!」と彼を祝福してあげよう!と誓ったのだった。そして晴れて彼がクローズした日にはなんだか私のところに凄い勢いで直撃した台風が去ってしまったような、なんともシーンとした空気が流れた。いつも何かと熱い私だが、あまり熱くならずにトムのように当たり前のようにマイ・ガイドラインを引き、決して他人を頼りにはせずに自分で行動すれば、ニューヨークに居ようが、インドにいようが自分の計画通りに物事を進めることが出来るものなのかもしれないと、なんだか妙に納得させられてしまう経験となった。
時間の経過と共にトムの事もなんとなく忘れ、またもや、どうしてこんな無駄な時間を過ごさないとならないんだとか、どうしてこの人はこんなに怠けていて給料をもらっているんだとか、どうしても他の人に振り回されてしまう日々が続いていた1
年10ヵ月後。ある日トムから電話があった。「アパートを売るんだけど査定しに来てくれるかな。」その声に前のトムとは少し違うちょっぴり優しい、見えないけど丸みを帯びたトムを想像した。そしたら「僕たちは今日6
時くらいには家にいるからそれ以降にこれる?」って・・・。今、「WE 」っていったよね。6 時に彼のアパートに行く約束をしながらも、トムが言っていたその「WE
」という言葉が気になった。って事はその別れた奥さんとよりを戻したのか、または実はトムは子供がいたのか。6 時に彼のところに行くように5
時過ぎにオフィスで出かける準備をしているとトムから電話。「でっ、何時にくる?」だから、6 時過ぎだよね。と思いつつ、でたぁ〜!待ちきれずにすかさず電話。そっか、トムは待つのが大嫌い。6
時と約束していても5 時になるともうイライラして待っているような人なんだ。変わってないじゃないかトム。
急いでオフィスをでて5:45分にトムのアパートに到着。アパートにつき久々の再会を笑顔で交わしているとキッチンから女の人がでてきた。えっ?この人だれ?しかも、彼との接点を見つけようとしてもなかなかみつからないような女性。あっ、もしかしてハウス・キーパー?と考えていると「僕の奥さんだよ」とトム。えぇ〜、ガールフレンドならまだしも、奥さんですか?早っ!しかも、彼女は殆ど英語が話せない。1
年前にコロンビアから語学学校にきた女性だった。がっ、そこで私は短気なトムの意外な面を見てしまった。なんとトムは彼女に対しては空のように広く、海のように深い愛情で接していたのだ。何が意外かというと、彼が彼女の話しをのんびりと聞いていること。彼女の英語は外人の私が聞いていてものろまで、聞いていると話を聞き終わる前に結果を言ってしまいたくなるような話方だった。なのに、トムはなんと彼女の話を最後までじっくりと聞いているではないか。あ〜、今まさにここに確実に外の空気とは違う、なんだか時間が止まったような風がのんびりと流れているではないか。
彼女が私に今日のディナーのピザを食べていかないかと薦めたくれたので、なんだかトムの意外な一面を見て落ち着かない私だったがご馳走になることにした。ピザを食べながら彼女とトムの出会いなどをトムが機関銃のごとく凄い勢いで話してくれた。でも「彼女がコロンビアで生まれ育ったこともあり、あまりニューヨークの生活には慣れないから二人で「のんびりと」フロリダで生活しようと思ってるんだよ」、とトムが言った時にはピザを喉に詰まらせてコーラで慌てて飲み込んでしまった。トムの口から「のんびり」という言葉がでてくるなんて。果たしてこのトムに「のんびりと」生活する事ができるのかどうかは別として、またもや私はトムから新たなミッションを与えられたのだった。それは「素早く」この物件を売ること!素早く物件を売るというのは当然、セールスの力次第だが、実は言い訳かましい言い方だが、季節やタイミングも大きく関わってくるため私の努力だけではどうすることも出来ない事が多い。なのに、「来月には引越しするから」とトム。でたぁ〜!どうしてそういう時だけせっかちなんだ。私は「お約束はできませんが、全力で取り組みます」と返事するしかなかった。
早速、トムの物件をマーケットに出した。それ以後トムからは一日に10 回以上は電話がきて、どうなっているのかと同じ事を聞かれた。私は半ば壊れたテープレコーダーのように、同じ事きくあんたが悪いんだよくらいの態度で同じことを答えた。何度も同じ答えを言えば彼もそのうち納得して、買い手がでてきたら連絡がくるからそれまで待とう。くらいの気持ちになってくれるのではと思っていたが甘かった。かれこれ2
週間くらい同じ話を彼にしているうちに運良く購入希望者が現れた。独身男性で安くて広めのところをさがしていたということでこのトムのアパートを大変気に入ってくれた。なんと$137,000
で一年10 ヶ月前に購入したアパートが$271,000 で売れたのだ。なんともバブルなトム。これまたあれよあれよと瞬きをする間に購入契約を交わすことができた。買い手の男性は、進行があまりにも早いのでちょっとビックリしていたが、なんとか説明しながらひとつづつ納得してもらい、無事に契約が成立した。
次にトムは、突然フロリダに行ったかと思うと今度はフロリダでも家を買ってきた。フロリダで家を買うのはおおいに賛成だが、今度は「だから早くフロリダに引越ししたいんだよ」と言うトムには参ってしまった。そうは言っても、これまた普通で考えたらトムが思っているようなスケジュールでNYの物件の引き渡しを終わらせて引っ越しまでたどり着くというのは無理なお話しだ。それでもトムは、また毎日何度も私に電話をしてきてまるで私の背後霊のようにつきまとい、私の身も心もずたずたになりかけた頃、彼の思い通りに物件の引渡しをすることができた。恐るべきトム!
そんな彼が現在、本当にフロリダで「のんびりと」生活しているかは大変疑わしいが、そうするつもりでフロリダに引越ししたのだから是非とものんびりとした、スローライフをエンジョイしていてもらいたいもんだと、たまに彼が住んでいたビルの前を通ると考える。でも、心の片隅で、彼はきっと今頃フロリダに飽きて、密かにコロンビアに引っ越す準備をしているのではないかとも思ったりしている。トムのように一生懸命というよりも「必死」で物事を解決していけば人任せに無責任な時間が過ぎることもなく、早送りで人生いろんな事(何度も引越しをしたり、離婚したり、結婚したり)を経験できるもんだと思った。今、またこうして彼のアパートを売り、トムからの電話が途切れてしまったら、あんなに嫌だったのに寂しいい気さえする。ニューヨークは個性豊かな人ばかりで、不動産ブローカーとして
10 人いたら 10 通りの「常識」を勉強しなくてはならない私だが、これぞニューヨーク!だからこそこの仕事が楽しくて辞められないのかもしれない。 |