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ニューヨークで生活していると、自分の意思とは無関係に、他人の行為によってむやみやたらに時間を無駄にされてしまうことがたびたびある。例えば、テレビのケーブル会社や電話会社に修理などを頼もうものなら、会社をクビになるんじゃないかと思うほどずっと私用電話をせずにはいられない。自分の仕事なんてそっちのけで、20〜30分は当たり前のように電話にしがみつく。何故かというと、やっと電話がつながったと思われたのに、保留にされ、挙句の果てには意味もなくブチッと切られるなんてことは日常茶飯事だから。ヨガで鍛えたリラックス・マインドを大いに活躍させて、全身でいいアドレナリンを活性化させ、再度電話をかける。がっ!二度もブチッと電話を切られた日には、席を立ちあがり、思わず床を蹴り飛ばしたくなる。やっとの思いで「人間」が返答してくれることに対し喜んだのも束の間、電話の向こうでは「朝7時から夕方の6時までの間に行きますので、家に必ずいて下さい」ということを平気で言ってくる。
まだ、あまりニューヨーカーじゃなかった頃、この不条理に彼らの間違いを正そうとして何度も戦ったことがある。例えば「あっ、ちょっと聞きますけど、もし修理の人がうちにきた時に洗濯場に行ってたりしたら、携帯に電話して貰えます?」「そしたらまた予約の取り直しです」だって。この忙しいニューヨークでただひたすら家にいてケーブルカンパニーが来るのを、じっと待ってられる人なんているのだろうか。そんな人いるわけないと信じて止まなかった私は、これを機会に貴方たちがお客さんに要求していることはとっても無茶なことなんですよっ!と言う事を、すべての消費者を代表して伝えてみた。そうしたら次に帰ってきた言葉は、「修理してもらいたいなら、こっちの支持に従わないと困ります」。そんな事を言われたって、困るのはこっちだ。
その頃の私は、このケーブルカンパニーの人は私が暇人だろうと勝手に思いこみ、私以外の人にはちゃんと時間を指定して、「9
時から10 時の間に伺います」とか言ってるのに、きっと私の事をバカにして、朝の7 時から夕方の6 時まで待ってろ!なんてふざけたことを言っているに違いない。そう信じて疑わなかった。だからバカにされたらいけないんだと、さらに戦ったりもした。がっ、それは無駄な努力だった。どうしてアメリカ人は、消費者が不便だと思うことを改正しようとしないのだろうか?当時はそれが不思議でならなかったから、私はあなたの会社の体質改善の為に、私の大切な時間を使って貢献していますっ!なんて、態度で何度チャレンジした事か。そうして時の流れと共に身についた、とにかくニューヨークで快く生活していく上で大切な業は、あまりシステムに反発しないこと。白旗を振って降伏宣言。もうこれ以上私は戦いません!ニューヨーカー達はいくら戦っても無駄なエネルギーを使うだけだということをわきまえていて、たまにプチッと切れたりすることはあっても基本的にはケーブル会社や電話会社のサービスはそういうもんなんだという態度で接している。そして、いつしか私も、もう大抵の事には腹も立たないし、不条理だとは思いながらも彼らの言うとおりに従うことに対して何も感じなくなった。だから、電話の途中で「これは私の部署以外のところで扱っている問題なので、その部署に電話をトランスファーしますね」といっている指できっと彼女は電話をブチッと切っていると分っていても、あっ、切れた!フゥ~
と深く深呼吸をして心新たにダイヤルする。そしてまた同じことを電話の相手に話す。何度でも聞いてください。私は平気ですっ!という態度でどっちが客なんだ?と分らなくなるほど丁寧に対応する。いい加減にしてくれ、オイ!と思っても我慢、我慢!
こんな感じにニューヨークでは他人に振り回されてばかりで自分の思うようになんていかないのが常なんだけど、そんなことはお構いなしに自分の思う道、マイ・ウェイを一直線に行ってしまうお客さんに出会ったことがある。他人に振り回されるのが大嫌いで、自分の計画どおりに物事を進めないと気がすまない人。最初はそんな無茶なと思っていたのに、トムに出会ってからというもの私のマイ・ウエィに対する考えも少し変わり始めた。
今となってはあまり「それどこ?」と言われなくなったけど、トムが購入した2002年には、まだ、ブルックリンのケンジントンと言うと大抵の人が「それどこ?」と聞いてくるエリアだった。当時、私はそこに1000SF
の1ベッドルームのリスティングを持っていた。私も初めてそこのアパートを見に行った時は、ここは一体どこ?と思ったけれども、何度か通っているうちに、地下鉄のF
ラインから歩いて30 秒、しかもプロスペクトパークもすぐそこという絶好の立地だということでなんだかそのアパートが大好きになっていった。こんな好立地のアパートなのに、あまり知られていないというだけで、その当時の値段はわずか$
150K 。当時でもブルックリン・ハイツではこの半分の広さで$200K 近くで販売していた事を考えると、地域は違うにせよニューヨーク・ライフのエッセンシャルともいえる地下鉄の駅、そしてセントラル・パークほど世界的脚光を浴びる事はないが、まさにブルックリン・ライフのオアシスとも言うべきプロスペクト・パークへも徒歩5
分。ランドリー・ルーム、しかもドアマンまでいるという申し分ない物件だった。
トムに出会ったのは最初にオープンハウスをしたときだ。アパートをくるっと一回りみて、直ぐに小声で私に「I
want to buy this 」と呟いた。勿論、購入を考えてくれるのは嬉しいのだが、私には私の仕事の段取りというものがあって、彼のファイナンスの状況などを聞く必要があった。なのに、とやかく言わずにこれを俺に売れよ!みたいな強引な言い方。あ〜、嫌だ!こういうわがままな人とは付き合いたくないよ。と思いつつもお客様ということで、そこは丁寧に対応。私はというと一応、ガイドラインに沿って物事を進めたい為、彼にいろいろと準備してもらう必要があった。とりあえず、コープだからファイナンスも大切になってくる。だから、それも添えて私に後日ファックスをしてくださいね。と言っている横で、もう待ちきれずに彼はその申し込み用紙に記入していた。早っ!とにかく彼は自分が今そうしたいと思ったら、後でどうするとかこうするというのが嫌い、イヤッ、大嫌いな人らしかった。その後、私はトムと3
年近く、そして今もたまに電話でやり取りをするのだが、彼は「今」を生きる人間で、常に旬を行く強いアメリカ人だということで、私なりに解釈している。
私のこのコラムを読んでいてくれている人はすでにご存知だろうが、不動産を購入する際には、自分の意志や行動というのもとっても大切だけど、チーム・プレーが最も大切だ。だから本来はその不動産購入というゲームに関わる自分以外のプレーヤーの事も念頭に入れながらゲームを進行する必要がある。買い手、買い手のブローカー、買い手の弁護士、売り手、売り手のブローカー、売り手の弁護士、ビルディングのマネジメント・エージェント、そしてコープの場合はボードメンバー。住宅ローンを組む場合は更に、アプレイザー、モーゲージ・ブローカー等のプレーヤーが関係してくる。だから、トムのようにオープンハウスに来て、いきなり「買う!」と決めたって、他にも順序というものがあるんですけど・・・といった対応にならざるを得ない。そういうような事を彼に言いかけたら、彼は「知ってる。前にも不動産を買ったことあるし、売った事もあるから、そんな事知ってるよ」というお言葉。私は、お〜、素晴らしい、それなら話しは早い。「そしたら今、買うといったって、売り手に値段の交渉や引越しのタイミングなども相談しないとならないしぃ」ということはご存じのはずですよね。と言いたかったのだけど、私の話がすむ前に「売り手の通りにするけど、もう自分は明日にでも引越ししたいし、ローンも組まないで現金でこのアパート買うよ」との事。
大抵の場合、物事が私のスピードでついて来てくれていない事に腹を立てることが多い私だが、今回ばかりは私も、あれれ?ちょっと待ってよ。と全てが早送りされているような感じに見えた。でも一方で、買うと決めたら潔く前進するのみの彼を、起立して拍手喝さいしている自分がいた。結局、トムは現金で今日にでも買うから$150K
の物件を値切って$137K で購入することを、売り手に有無を言わせない勢いで合意させた。
一般的な購入者というのは大抵の事が初めての経験だから、質問、そしてまた質問をしているうちにどんどんと時間が過ぎてしまうもの。トムときたら、ボード・パッケージを揃えるのに一週間とかからなかった。適当にわからないでやってるから早いんだよ君は、と思いながら目を通すと、お〜出来てるじゃないの。ブラボー!しかもパッケージが出来上がり次第、彼は自分の手でそれをマネジメント・エージェントに配達しているではないか。彼は郵便システムすら信用していないようだ。やっぱり自分の手足を使い配達するのが一番?ってそれはあまりにも原始的な方法だけど、やっぱりこれって一番確実だよね。これまた、私の経験から、一般的なプロセスとしては(というか、これは本当はトム以外の全員に当てはまるのですが)買い手はボード・パッケージを買い手のブローカー(私)と確認しながら完成させ、それが終わり次第ブローカーが、マネジメント・エージェントに持っていき、そして彼らがコープのボード・メンバーに配り、そしてボード・メンバーがパッケージを審査をし、それではこの人に会いましょうという流れになる。そして、ボードメンバーが買い手に連絡をして、晴れてインタビューの日が決定される。この一連のプロセスは一体どれくらいの日程で進められべきか?通常、急いでも1
ヶ月。マッハのスピードでやったところで、軽く3 週間はかかる。しかも、この間にナショナル・ホリデーがあったり、宗教的なホリデーが入ろうもんなら余裕で更に3
週間、4 週間と伸びてしまうのが普通だ。なので、あまり時間通りに事が次に進まなくても、いちいちため息をついたりしないように最初から心構えをしておく。なのに!トムはというと、私や、弁護士、マネジメント・エージェントの仕事を一人でこなしてしまっているではないか?待ちきれない気持ちは充分理解できるけれど、ちょっと待っておくれトム。
何故、私が彼の行動をハラハラして見ていたかというと、私はこの仕事を始めてから「口は災いの元」という格言を何度も身をもって体験したからだ。状況を知り尽くしていないお客さんが何かのきっかけに他のプレーヤーのご機嫌を損ねるような発言をしてしまうことはよくあって、チームワークが最も大切なこのゲームではチームワークが乱れるとゲームの進行が大幅に遅れてしまう。なので、私はプレーヤーが常にハッピーにゲーム終了を迎えられるように極力注意を払う。このことを考えると、私がニューヨーカーになりきれなくてケーブル会社や電話代のことでよくもめていた頃、変に相手の落ち度を指摘したり、改善しようとするために無駄なエネルギーを使って抵抗していたことは大いに間違った行動だったといえよう。この仕事をして思ったのだが、日本人にもこんなに単純にも「木に登る豚」(豚もおだてりゃ、木に登る)がいるかは定かではないが、少なくともニューヨークには結構の数のアニマルが存在すると思われる。なので、こちらの都合で相手に何かしてもらはなくてはならない場合、それが明らかに相手の仕事だとしても、私の為に本当に申し訳ない、あなたのお陰で今日の私がいるのよくらいに、おだてるのが一番。相手もおだてられているのは承知で、不思議と親切に対応してくれるもんだ。
それなのに、トムのように人の仕事を奪いとるように全てを自分でこなされては、話がこんがらがってしまうじゃないの。相手に有無を言わせず、ひたすら自分の都合で、しかも自分のスケジュールで何足ものワラジを履きこなす、トム。私はひたすら彼に幸あれ、という気分で遠くから見守るより他なかった。こんな強引なトムは他のプレーヤーの機嫌を損ねること無く無事にアパートを購入する事ができるのだろうか? |