|
不動産エージェントの醍醐味は、なんといってもソープオペラ(1) かというようなドラマを日常ライブで体験できること。この仕事を始めて、「まぁ〜、お金が絡むと人って性格かわるのねぇ〜」という事はあまりにも日常すぎて、驚きが薄れてきてしまった。国際線のフライト・アテンドをしている友達から聞いた話だが、何故か、飛行機に乗った途端に性格が変わる人がいるらしい。車の運転をすると性格が変わる人もいるから、なんか乗り物ってそういう効果があるのかも?普段はとってもおっとりしてるような彼もハンドルを握った瞬間から人が変わってしまって、「貴方だれ?ここはどこ?」って聞きたくなるような、それに似た感じ。なのに、こんな大枚をはたいて一生に一度かもしれない不動産の購入をしようとしているのに、「なんでお前は燃え上がらないんだ〜、立て!立て!立つんだジョー(「明日のジョー」古い?)」と、まるで私をジョーのトレイナーのように奮い立たせてしまった人がいた。なんと彼は、最初から最後まで見た目を裏切らない、何が起きても動揺しないなんとも紳士なお客さんだった。そういう訳で、お金が絡むと人が変わるというのはNYではあまり珍しい話ではないので、全く人の変わらない、そういう珍しい人のお話しをしようかと思う。
2003年の2月、友達の台湾人カップルからチャイニーズ・ニューイヤーのパーティーに誘われて彼らのお家に行ったときのこと。彼は建築家で以前に不動産を購入していただいた元お客さんだ。そのパーティーにいたブロンド(ちょっと少な目だけど)でブルーアイなのにアジア人にまぎれても何故か目立たない、これまた建築家のスティーブ。チャイニーズ・ニューイヤーのパーティーということで参加者のほとんどはチャイニーズだ。スティーブも最初、私の事をチャイニーズだと思っていたらしい。そういうわけで私がまわりの人に、私は日本人だけど何故このカップルと友達かというと、彼らの不動産購入のお手伝いをしたからといったいきさつと、その時のエピソードなどを含めて不動産の話を始めると、スティーブは自分もアパートを買おうかと思ってるんだけど・・・。と話してくれた。「それで?」と話しの続きを待ったが、だからってどうするわけでもなくて、ただそろそろ買ってもいいかなくらいにぼやっと思っていたらしい。
いろいろと質問をしてみると、「買いたい!」という強い意志があるわけではないから、どこのどういう物件が買いたいという希望も何もない。本人に希望がないから、何を薦めていいのか私もわからない。なんだかすべて内容がない「・・・」の白紙状態。なので、とりあえず週末に何でもいいからオープンハウスに行ってみて、どこの地域でどういう物件がいくらくらいで買えるのかを観てきてもらうことにした。それで、こんなもんがこんな法外な値段で売ってるのかとがっかりして、うっすらとあった購入しようという思いが抹消されるかもしれないし、このネイバーフッドは嫌いだけど、他の場所ならこれくらいの値段で購入してもいいかもと少しでも彼の思いを形にすることができるかもしれないと思った。
その後、何週間かオープンハウスの情報を彼にメールしたけれども、一体そのオープンハウスに行ったんだか、そうでないのかもわからないまま2ヶ月くらいたったと思う。ところが、真面目な彼はひっそりと毎週のようにオープンハウスに足を運んでいたらしい。ブラボー!スティーブ。そうして彼の達した結論は、「コープよりもコンドミニアム、ドアマンなしでもオーケーだけど、庭またはバルコニーが欲しい」ということ。しかも場所はパークスロープまはたブルックリンハイツ。この希望を聞いて私の反応は、「はい、はい、今どきそんな夢みたいな物件ありません。あっ、でもまあ、いつかでてきたらご連絡しますっ。」といったもの。それに、そんな物件がマーケットにでてきたとしても、競争率が半端じゃなく高いので、はっきりいって気弱なあなたには厳しいよねぇ、というのが私の感想だった。
ちょうど2003年のこの時期は、まさにオファーをしても、これでもか、これでもかってくらいにオーバーアスク(2)
でないと物件を獲得することができない時期だった。その当時、不動産を購入しようとしていた人達がみんな口をそろえて言っていたのは「real-estate
is a official sports in New York City 」だということ。まずこの過酷なスポーツで一番大事なのは体力!例えば、パークスロープにあるコンドミニアムの販売初日。発売時間は午後の5時のオープンハウスというのを聞いて、念の為にマンハッタンで勤めるお客さんに、お願いだから今日は会社を早退して現地に4時45分に待ち合わせしましょう!そしたら一番乗りよっ!なんていって現地についてびっくり仰天!正確にいうとびっくり仰天したのは現地についてからではなくて現地について一通り部屋をみて、やっぱりこれしかないでしょ!ということで、それじゃ、善は急げで今日中にリザーブしておこうということになり、購入したいという旨をエージェントに伝えると「えっ?もう朝の5時に売れてるよ」。・・・。・・・。・・・。って。えっ?「Did
you just say 5:00 am? 」
AM ですよねっ?午後5時のはずじゃなかったの?なにぃ〜???エージェントの話によると朝の5時からビルの前に列が出来始めた為、朝、整理券を配り彼らに優先的に購入してもらうことになったらしい。それを聞いてお客さんは勿論、私もがっかりとしてしまい、二人とも一揆に力が抜けそのまま家路についた。帰り道に二人で「また、やられた!」と何度も繰り返した。当日、私のお客さんは、朝から手に汗握り早退する時間をそわそわ待っていた。に違いない。早退するためにその日の仕事を時間よりも早く片つけるために、きっといつもよりも一生懸命仕事もしたと思う。それなのに購入のオファーをする余地さえ与えられなかったわたし達は、さすがはニューヨーク、暇人がいるんだよねぇ〜、なんて悔し紛れに何度も繰り返した。体力の有り余ってる暇人以外誰が朝の5時からコンドミニアムを買うためにビルの前に並ぶのか?でも、当時は何度もそんな屈辱を味わった。体力のある限りどこでもいきます!みたいなメンタリティーがないと何もオファーできないままゲームオーバーになってしまう。特にコンドミニアムというと当時の不動産マーケットでは最もハードな種目だった。そんな訳で、最初にスティーブがコンドミニアムがいいと言ったときに、この男がこんなハードなスポーツに耐えられるわけがないっ!と私は勝手に思った。まして、このハードなスポーツに彼が耐えられるように調教する忍耐や体力は私には無かった。
スティーブの事を忘れかけていたある週末、彼から電話があった。今日、友達とオープンハウスにいって物凄く気に入った物件があったから、是非オファーしたいと思ったけど、実はそれには問題があるとの事。話しを聞くと、パークスロープのコンドミニアムでしかも庭付きというのがあったから、これはパーフェクトと思い、その近所に住む女友達と一緒にオープンハウスに行ったらしい。それで何が問題なのかというと、全くアパートを購入しようなんて考えていなかったその女友達がそのアパートをとっても気に入ってしまい、いきなり「私これ買うっ!!」と言い出したらしい。それで、それのどこが問題なのかと私が尋ねると、「彼女が気に入ってしまったから、自分はオファーを出すわけにはいかない」と言う彼。「へっ?なんで?ど〜してそう思うの?その女の友達というのはあんたのガールフレンドかい?」と呆れて聞くと、「Just
a friend 」らしい。「じゃ〜、どうだっていいじゃないのよぉ〜。あなたも気に入ったんだったら気にしないで今からオフォーの準備すればいいじゃん」と私が言ったところで、スティーブは「いやぁ〜、彼女のオファーより自分が高くオファーしてそのアパートを購入したところで、彼女にはバレルだろうし」というなんとも弱気な発言。そんな事あたしの知ったこっちゃない!私にしてみれば、こんな過酷な不動産マーケットで仕事をしていたから、そういう弱気な発言をする男がいるだけでも、なんともイライラしてしまうのだった。その後も私が、「その女友達が欲しかろうがそうでなかろうがそんなことは知らなかった事にして買おう」とか、「要するにのこ世は金じゃ〜!自分の方が高くオファーしたから仕方ないよねっ」って後から言えばいいじゃないの等々、数々の説得を試みたが、スティーブはしきりに「いやぁ〜、いいよ、今回は彼女を連れて行った自分のミステイクだよ」というばかり。要するに、自分はそんな感じの物件が欲しいわけだから、それに似たのを探してくれればいいよ。だって〜。って、そんなのありえなぁ〜い。
普段から良い行いをしていると、神様が見ていてくれて、いつかは幸福に導いてくれるということを、アメリカでは子どもの頃から教え込まれているはずだけど、そんなの実行している人なんてみたことない。ニューヨークに長年住み、面の皮がうっすらと厚くなってる私には、もうそんなおとぎ話は通用しない。もう、王子様も迎えに来ないって知ってるし、カボチャはカボチャで馬車にもならない。アヒルはアヒルで白鳥じゃないわけもしってる。(けど、恥ずかしい話だが私は結構おとなになるまでアヒルは白鳥になると思っていたっけ)。だから、いくら天使のような心を持っていたって、悪魔のような心を持つ女に負けて、最後には悲しい結末になるに決まってる。頑張れスティーブ!心優しいスティーブにはどんな試練が待っているのか?果たしてスティーブはこのタフなニューヨークで自分の気に入った不動産を購入することができるのだろうか?
続く・・・。
(1) ソープオペラ: 日本でいう昼メロ。アメリカではお昼の時間に放送されている主婦向けメロドラマをこう呼ぶ。
(2) オーバー・アスク: 最初に売り手より提示されていた値段よりも高い値段をオファーすること。
|